■サブで生きる心意気

家族三人でショッピングに出かけた時、雑踏の脇に机を構える、一人の似顔絵師がいました。そのショッピングモールには何人も“似顔絵屋さん”はいたのだけれど、わたしはその「たけし」という人のイラストがすごくいいなと思ったんだ。ダンナ様に「一人10分だって。30分、いいかな?」とお願いして、似顔絵を描いてもらうことにしました。その似顔絵師さんとのお話が印象的でした。

「すぐに飽きてしまう赤ちゃんから先に描きますね」と鉛筆を持つ、たけしさん。かいくん→かいくんを抱っこしてるダンナ様→わたし、の順番です。まず、鉛筆でだいたいの形を取って、輪郭、髪、眉、目、鼻、口、と軽く下書き。その次に黒ペンに持ち替えて、線を描き込んでいきます。そして、消しゴムで鉛筆の線を消し、コピックで色を付けていきます。仕上げに修正ペンでちょこんと黒目にヒカリを入れて、サインを書いたら、完成です。

シャカシャカ動く手は、職人芸。興味津々に覗き込んでいると、「そんな嬉しそうに見続ける人も珍しいですね(笑)おかしいですか?ハハハ」と、控えめに突っ込みつつ、やっぱり手はシャカシャカ。

私:「似顔絵の描き方を勉強されたんですか?」
彼:「絵の勉強はずっとしてましたけど、似顔絵専門のとことかはないですね」
私:「独学なんですか?」
彼:「似顔絵のコツみたいなのは、教えてもらいましたね」
私:「普通の絵画も描けるけど、似顔絵でいこう、って?」
彼:「ああ、そうですね。すごく個性と才能がある人の場合は、何も教わらず我流でいくといい味が出るのかもしれないですねー。自分はそうじゃなかったけど」
私:「この辺ほかにも似顔絵屋さんあるけど、ここで゛描いてもらいたい”って思ったんです」
彼:「本当ですか?嬉しいですね」

本当です。似顔絵って、特徴を大げさに強調しすぎると、毒々しいというかちょっとイヤミなイラストになってしまいがちです。それが、ここにはなかったから。例えて言うなら、肖像画に近い描き方かもしれません。それに、変に美化したりもないから、安心して飾っておけるような落ち着きがあるのです。

私:「10分で初めて会う人の特徴を捉えるとか、難しそう」
彼:「目の前にいらっしゃるから、描きやすいですよ」
私:「???動いてるのに?」
彼:「はい。動いてる方が、特徴が分かりやすいんですよ。陰影が出るし、筋肉やパーツの動きも分かるし。その人らしい表情も見せてくれますからね」
私:「動かない方が描きやすいのかと思ってました」
彼:「んー。逆ですね。(見本で飾ってる)芸能人とか、雑誌や写真から描きますけど、難しいです。女優さんとか光を当てて影を飛ばしているので、ほんと、形をなぞるだけって感じになってしまいますね」
私:「へええ!!!目からウロコです」
彼:「よく、写真を持ってきて、明日ある友人の結婚式で使いたいから、この二人をすぐ描いて!というお客さんがいますが、大変です」
私:「写真だから?」
彼:「そうそう。写真からだと10分じゃ描けないですからね。なのに、写真があればすぐ描けると思われてるみたいで・・・」

などと話しているうちに、約束どおり、30分で出来上がり!
お礼を言って、代金を支払って、終わりです。

部屋に飾った似顔絵を眺めながら、似顔絵屋たけしさんの言葉を何度も思い出します。“写真から描くのは難しい。本人が目の前にいた方が描きやすい”

わたしは以前、絵を描いてました。絵を描くのも、文章を書くのも、大好きだったのです。学生の頃に、せっせと漫画を描いて投稿していたりもしたのだけれど、ある日ふと気付いたのは、「わたし、写真になった風景を絵にすることは出来るけれど、目の前の風景を絵にすることが出来ない」ということ。実際、写生がすごく苦手で、目の前に咲く花をキャンパスにおさめることができなかったのです。その花を写真におさめて、それを見ながらそっくりに描くのはすごく上手くいくのに・・・。その時に、「わたし、絵は好きだけど、絵が苦手なんだ」と思い至ったのでした。その日以来、絵は二度と描いていません。美術館を巡っても、キャンバスには向かわないし、漫画を読んでも、原稿用紙には向かいません。

“写真から描くのは難しい。本人が目の前にいた方が描きやすい”・・・その通りだなあ。それが出来なくてわたしは諦めたんだもの。だから彼はプロなんだもの。なぜか妙に清々しいのは何故?合点がいったからか、胸の痞えが取れたようなスッキリ感。

好きだからその道を極めたい、という気持ちは皆持ってると思います。それと同時に、好きだけど個人的に楽しむだけで十分だ、という気持ちもあるのではないでしょうか。それを分けるのは、才能とか努力とか意志とか、色々な理由があるけれど。

小さい頃に習っていたピアノ。皆から上手と言われるけれど練習が辛い。音大に行きたいわけじゃないのに。
ずっと通っている水泳教室。選手コースを勧められるけれど、オリンピック選手を狙ってるわけじゃない。もっと友達と遊ぶ時間がほしいから今のままでいいんだけれど。
そんな気持ちを抱いたことある人って結構多いのではないでしょうか?

「趣味で続けたいんです」

その一言が言えなかった。
そんな言葉があるなんて知らなかった。
趣味に甘んじたら負けだと思い込んでいた。

絵筆を折った日から、わたしは「趣味で続けたい」と思う気持ちを、「サブで生きる心意気」と呼んでいます。その道のプロがその道ではメイン。だけど自分はアマで楽しむサブがいいんだ。・・・そういう、心意気。なかなか粋でしょう?

プロになる!という決意は相当なものです。
プロで在り続けるという力は圧倒的です。
プロを目指さない覚悟も、結構たいへんな労力が要ります。

時に“挫折”と呼ばれてしまいがちですが、“諦めること”の中にある謙虚さも、いいものです。サブで生きる心意気、一つの美学になれるかな?“趣味”を“趣味”のまま、大切にしていけたらいいですね。


初出:2005/11/17 ブログパーツ
【おまけ】その日の日記を読む?


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