「癒しブーム」の考察

第4章;ブームの背景の推測とこれから私たちが出来ること。



●背景の考察  

現在の社会的背景を見ながら、私たちに必要なことを考えていきたい。

 まず、過去と現在の比較から考えていく。

@飢えや貧しさから開放された、と いうこと。

誰もが十分に食欲を満たし、考え、精神的に悩む余裕が出てきた。豊 かになったゆえに、生活の向上という目標を失ってしまった。さしあたっての生 きる目的が簡単に見つからないため、人生に価値を見出すことも容易でなくなっ た。

A束縛・生命の危険からの開放、敵も正義もいない、ということ。

強烈な道 徳や義務、規則、抑圧、束縛がなくなり、精神的にも肉体的にも拘束されること がなくなった。法を犯さない限りは何をしても咎められることは無く、価値観も 自由である。日常生活で命の危険を感じることが無い。全員が中流化したため、 争うべき敵も見えなくなった  続いて、現状を考えていく。

B少子化。

家に家族がそろうことがほとんど無く 、各人が努めなければ家族が家庭として機能しなくなってきている。一人ひとり はどんどん自由になるのに、人と人との関係はどんどん希薄になってゆき、孤独 感が家族の一人ひとりにしみ込んでいっている。

C誰もが主人公になる可能性の ある社会。

家柄や経済的理由で立身出世をあきらめていた時代ではないため、現 代は誰もが主人公に成ろうとし、自己主張しつづけている。より良く生きること や注目される人生を送りたいという願望を抑圧する社会的制度や基盤はすでにな いが、どの時代も成功者になれるのは、一握りの人間であることは変わりない。 とすると、中心的な人間になりたくてもなれなかった人間は、悲しみと自己否定 感を抱くようになる。

D闇と静寂の喪失。

夜も照明があふれ、私たちの環境から 「夜」や「闇」が消えてしまった。私たちの精神は覚醒状態が続き、休まること がない。闇が持つ静寂に耐えると言う経験がないため、自分自身の心の闇にも耐 えることが出来ない、すなわち自分の心の中の不安や恐怖に耐えることが出来な く なって、それを排除するか、もしくは、そういう状態から逃げ出そうとするよう になった。

E弱さを受け容れるようになったこと。

障害者などの社会的弱者が隔離隠 蔽されることなく、社会で共に生きている。マスメディアの発達もあり、かつて は隠された心の病も公然と語られるようになった。ゆえに精神的な弱さが目立つ に見える。また、環境ホルモンなどの有害物質によって、現実的に人間が弱くな っている。F人間が増えたゆえに触れあいがなくなった。

G誰もが大人になれな い社会。

カッコとした価値観が失われ、自分たちのモデルとなるべき大人がいな くなってしまった。情報が氾濫しているため、どんな大人も次々に遺物となり、 「大人のイメージ」を構築しにくくなっている。

H強烈な競争社会。

学歴や外見 、収入や地位、家や財産、私たちは無限の競争を続けている。際限のない競争の 中で、劣等感と優越感でないまぜになりながら、複雑な自尊心の心の歪みを感じ 、愛されない不安を感じている。


 以上、見てきたように、私たちを取り巻く状況を考えてみると、今の時代は、 本当にストレスでいっぱいなのは確かで、人間らしく生きるのが難しい状況だ。

そのような中で、これから必要なのは、ストレス社会を「生きる力」であると文 部省の指導要領も改定されるという。 新しく打ち出された「生きる力」という教育課題の意義は何だろう、どんな能力 を「生きる力」と考えているか。

町澤氏は、若者の精神障害の原因として「遊び 」の欠如を指摘していたが、私たちに必要なことは、自分が自分の人生を生きて いる実感で、そのためには、自分を自我に自分をコントロールするだけの力を付 けなければならないと思う。

 自分を支えるもの、自分の人生に価値や意味を与えるものは、他人からの一方 的なプレゼントでもなければ、ある日突然手に入るものでもない。日常生活にお いて、自分の心―自我―を鍛えられるのは、自分でしかない。自分のこれまでの さまざまな経験や記憶が個別的であるのと同様、自我の鍛え方も個別的なものな のである。

 私たちが今、気づかなければならないこと。「癒し」を、現実逃避や無気力か らの逃げ場にしてしまってないかということからはじめ、現状を起動修正するの は自分でしかない、ということを自覚することである。生きているという実感を つかむため、自分自身の手で自分の問題を自覚し、解決し、克服していきたい。


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